水素を動力源とする新しいレースカーの車両開発を進めるForzeハイドロジェンレーシングがキスラーの技術を活用


水素を動力源とする最先端のレーシングカー「Forze IX」を、オランダのデルフト工科大学の多様な分野の学生たちで構成したチーム「Forze」が設計・開発しました。この開発にあたり、チームはキスラーの様々なソリューションを活用し、圧力、温度、トルクや車両ダイナミクスを測定しました。デュアル燃料電池、ゼロエミッション、レースで勝利を収めるパフォーマンスと卓越した安全性により、「Forze IX」は圧倒的な成果を挙げています。

「持続可能なモータースポーツ」というフレーズは一見、矛盾していると感じられるかもしれません。しかしForzeハイドロジェンレーシングでは、これが矛盾しないのです。「未来の水素経済」がまだ遠い先のことだと思われていた2007年にデルフト工科大学の学生たちがチーム「Forze」を結成し、小型ゴーカートの開発をスタートさせました。チームは現在、水素を使った第9世代の燃料電池レーシングカー「Forze IX」の開発に取り組んでいます。これは「ル・マン」プロトタイプのフルサイズレースカーで、0-100km/h加速は3秒未満、最高速度は300km/h、燃料電池出力は240kW(ブースト時は600kW)という圧倒的な性能を発揮します。Forzeチームは新しい車両で、スーパーカーチャレンジのGTクラスのガソリンモデルに比肩する性能を実現したいと考えており、環境にやさしい代替燃料である水素を動力源とするレースカーの大きな可能性を示そうとしています。

「Forze」は2008~2011年に開催された一連のゼロエミッションモータースポーツ選手権「フォーミュラ・ゼロ」の略で、この選手権の初期にこのオランダのチームは3回連続で優勝を果たしました。「その後、私たちは水素技術の開発をさらに発展させるために、フルサイズの水素レーシングカーの世界に挑むことを決めました。初代モデルとなった「Forze VI」は、ニュルブルクリンクにおける水素エンジン車のラップ記録を今も保持しています」と話すのは、Forzeで他のスタッフとともにPRとマーケティングを担当するトーマス・ノーチェイです。「しかし、それは私がチームに加わった2022年8月よりもずっと前のことです。チームは毎年8月にメンバーを選抜し、プロジェクトをスタートさせています」。現在はForzeに約30人がフルタイムメンバー、約30人がパートタイムメンバーとして参加し、Forzeは大学とは別個の独立した団体となっています。「Forzeでの作業はすべて無給となりますが、ここで作業をしていると、貴重な経験を積み重ね、実践的な洞察を得ることができます。また、メンバーが入れ替わっても知識を蓄積・継承できるよう、Forzeの卒業生たちは現役メンバーたちとのつながりを保ち、必要に応じてチームに知識や支援を提供してくれます」(ノーチェイ)。

車両開発に挑む:新しいレーシングカー「Forze IX」は様々なピエゾレジスティブ圧力センサを用いて最適化されています。
車両開発に挑む:モータースポーツチーム「Forzeハイドロジェンレーシング」の新しいレーシングカー「Forze IX」はキスラーの様々な測定ソリューションを用いて最適化されています。

ピエゾレジスティブ圧力センサで燃料電池スタックを監視

Forzeは、技術、マネジメントサポートや資金を提供する様々なパートナーネットワークの協力を受けてプロジェクトに取り組んでいます。キスラーもパートナーとして名を連ねており、測定技術のエキスパートたちがForzeに車両開発用の各種センサとシステムを提供しています。燃料電池スタックを制御するこれらの測定システムは、パフォーマンスに直結する様々なソリューションと並び、重要な要素の1つとなります。新しい「Forze IX」は開発途上ですが、このシリーズで初めて燃料電池を2個搭載したことで、独立した4個(各ホイールに1個)の電気モータに伝達されるパワーが2倍にアップしました。また、水素タンクを4個組込み、揮発性ガスの合計容量 が 8.4kgとなりました。

「キスラーがパートナーになってくださり、本当に嬉しいです。ファーストコンタクトは2017年でしたが、キスラーの製品は一貫して最高品質を誇り、信頼性が高く、使い勝手も優れています。キスラーの製品群はかなり多岐にわたっているので、自動車の様々なシステムで製品を活用することができます。レースに出場した時は、キスラーの技術が信頼性とパフォーマンスの向上を確実に後押ししてくれるでしょう。」


トーマス・ノーチェイ(Forze のPR &マーケティングマネージャー)

主な利点はコンパクト&多機能

Forzeの車両開発では、キスラーの圧力・温度センサ 型式4080  BT(レース用に特別に開発されたセンサ)を使用して、燃料電池冷却サイクルのポンプのすぐ上流で冷却液を測定しています。ポンプ内部の温度上昇はごくわずかなので、このセンサは、最終的に冷却液を冷却するラジエータの入口手前の温度を測定するためにも用いられています。Forzeでチーフエンジニアを務めるインディア・ファン・ドルネンはこう話します。「私たちはこのようにして冷却性能を評価しています。また、フロントとリアのドライブトレインの冷却サイクルでも型式4080BTのセンサを活用しています。特にここではパッケージングが大きな課題となるので、キスラーのセンサのサイズが他の製品と比べてかなりコンパクトであることは大きなメリットとなっています。このセンサは圧力と温度のどちらも測定できるので、効率的に作業を進めることができるという点でも優れています。」

キスラーの2つ目のピエゾレジスティブ圧力センサ 型式4007Dは、燃料電池内の空気圧を測定するために、燃料電池システムのカソード側で使用されています。ファン・ドルネンはこう話します。「これはカソード側で非常に重要なセンサの1つです。コンプレッサは大変重要な要素だからです。キスラーのセンサとアンプは目的に合わせて簡単に調整しやすく、カスタマイズも容易です。なので、今までは基本的に技術面でサポートしてもらう必要はなかったのですが、わからないことをキスラーに問い合わせた時にはいつも迅速に対応していただきました。」

ゼロエミッションにもかかわらず、ガソリン車と互角の性能を発揮

「Forze IX」のコーステストは2023年春の実施を予定し、最初のレースは同年夏となる見込みです。ノーチェイはこう話します。「その後、スーパーカーチャレンジでガソリンエンジン車のポルシェやランボルギーニと対戦します。今はとにかく最初のレースに早く参戦したくてうずうずしています。こうしたレースに参戦するだけでなく、水素やモータースポーツに焦点を当てた国内外のイベントにも参加しており、年1回ほど『トラックデイ』も開催しています。この技術に関する知識を広め、水素と燃料電池の普及を促進することも私たちの重要な仕事だからです」。それまでに、Forzeはさらにキスラーの様々な技術を車両開発に応用していくことになります。その例の1つとして挙げられるのが、レーシングセンサ Correvit SF-Motionです。このセンサは非常に動的かつ厳しい環境下においても、速度、横方向・縦方向加速度のほか、ピッチ角とロール角も測定することができます。 「このホリスティックセンサを今春の試験で活用する予定です。このセンサは多機能かつ高精度で測定できるので、すでに車両に組込まれている他の各種センサを評価するために使用することができます」(ファン・ドルネン)。

さらにキスラーは、新開発のソリューションであるKiTorq DSセンサもForzeに提供しています。このセンサはモータースポーツをはじめとする高性能な自動車向けに特別に設計されたもので、アキュムレータのブースト機能の動作中に大きな負荷のかかるドライブシャフトの疲労を監視するために使用されます。「Forze IX」には、ブレーキング時にエネルギーを回収して蓄電し、燃料電池からの余剰電力を用いる新機能があります。これによって急加速にも対応できるようになったのですが、一般の燃料電池の出力と比べてドライブシャフトにかかる負荷が大きくなるため、こうしたセンサが必要になります。トーマス・ノーチェイはこう話します。「こうしたキスラーのソリューションはすべて、私たちの車両の信頼性と性能の向上に貢献しています。プロトタイプの試験と検証を繰返し、私たちのデータをサーキットからキスラーにも送信しており、双方向のプロセスとなっています。持続可能なレースという用途にとどまらず、水素向けの革新的な測定技術の開発にも役立っているので、どちらにとってもプラスの関係であると言えるかもしれません。」

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